9番川嶋悠太選手が相手の攻撃を防ぐ

9番川嶋悠太選手が相手の攻撃を防ぐ

試合が動いたのは、試合終了間近、後半残り1分だった。

ゴールボール日本代表・男子は、2016年にブラジルで開催される
リオ・パラリンピックへの出場権をつかもうと戦っていた。

2015年5月10日から17日まで韓国・ソウルで開催された視覚障害者
スポーツの世界大会IBSAワールドゲームス。
視覚障害者スポーツ9競技が行われた大会で、ゴールボール男子は
上位3位までのチームにリオ・パラリンピックへの出場権が与えられる。

日本代表・男子は予選リーグ(グループB)で、強豪イランと5対5で引き分け、
中国を5対2で破り、グループ3位で決勝トーナメントへ進出。
世界大会で予選リーグを突破したのは、これが初めてだった。

キャプテン・信澤用秀選手

キャプテン・信澤用秀選手

「僕らは、リオに出なければいけないんです」
日本代表の信澤用秀(28歳)は、そう言っていた。

体格が大きく、力強いボールを投げることができる信澤は、
日本代表・男子チームのキャプテンだ。
リオ・パラリンピック出場に強い思いを持っている。

日本代表・男子は、これまでパラリンピックへ出場した経験がない。
パラリンピック出場という目標はこれまでも掲げてきたが、2016年
のリオ・パラリンピックに「出なくてはいけない」というのには理由がある。

2020年のパラリンピック開催国が、日本に決まった。
開催国のチームには自動的に出場権が与えられるが、母国開催の恩恵で出場
できるのと、パラリンピックへの切符を実力でつかみとって出場するのとは、
出場の意味が異なる。
日本代表選手の胸には、母国開催が控えているからこそ、一つ前のリオ・パラ
リンピックで初出場を果たしたいという思いがある。

5月16日、決勝トーナメント初戦の相手は、トルコ。

試合開始前、日本代表がトルコ代表と横一列に整列すると、
トルコ代表選手の身長は、日本より頭1つ以上、高かった。
身長に比例して手足も長い。トルコは、その体格を活かして、スピードや力強い
ボールで攻めてくることが予想できる。

試合前、円陣を組む日本チーム

試合前、円陣を組む日本チーム

「日本、がんばれ!」

ゴールボール男子の競技会場に、日本を応援する声がこだました。同日午前中に行われた
ゴールボール女子の決勝トーナメントで、中国に敗戦した日本代表・女子
の選手たちが応援に駆けつけた。

男子選手たちを率いて会場に入ってきたヘッドコーチ・池田貴が、観客席へ向かって
手を上げた。男子選手たちも応援の声がする方向に手を上げて応えている。

ホイッスルが試合開始を告げた。

ゴールボールは、ハンドボールと同じ広さのコートを使い、1チーム3人で対戦する。
各選手はアイシェードと呼ばれる目隠しを着け、“見えない”状態で戦う。
音の鳴るボールを転がし、相手陣地のゴールに入れると1得点が入る競技だ。

左サイドから投げると見せかけて、選手が移動し、右サイドから投げたり、
相手チームの選手と選手の間を狙ってボールを投げるなどして攻撃する。
ディフェンスは、転がってきたボールに対し、選手が体を横滑りさせてゴールに
入らないように止める。
相手チームの選手の気配や足音、ボールの鈴の音などを察知して、攻撃や防御の方法を
判断していく力が必要で、集中力の高さも求められる。

小柄な体格の選手が多い日本には、欧州の強豪チームと比べるとボールの力強さはないが、
動きの機敏さ、細やかさで勝負を挑んだ。

3番伊藤雅敏選手

3番伊藤雅敏選手

IBSAワールドゲームス準々決勝・日本対トルコは、前半を終えて3対4。
トルコの1点リードで折り返した。

後半に入り、日本は1番の信澤、3番の伊藤雅敏(32歳)が1点差をつめようと懸命に攻めるが、
トルコのディフェンスの壁を破ることができない。
日本は、センター川嶋悠太(20歳)が、左右に俊敏な動きでトルコの追加点を許さない。
互いに譲らないまま、時間が刻々と過ぎていった。

後半残り1分。

日本のヘッドコーチ・池田が動いた。
1番・信澤に代えて、6番・辻村真貴(20歳)。
辻村は、狙い通りのバウンドボールで、トルコの壁を破り、4対4の同点とした。

日本の応援が一気に活気づく。
しかし、応援の熱が上昇する間もないほど、すかさずトルコが反撃して4対5。
さらに、日本のペナルティでトルコがゴールを決めて4対6。

残り時間40秒を切り、日本の3番・伊藤が取り返し、再び1点差につめ寄るが、
トルコは時間を消化するためスローボールを投げてくる。

日本が同点に追いつくチャンスは、あと1回。
1番・信澤、9番センターの川嶋悠太、3番・伊藤は、中央に集まり、最後の攻撃
に向けて呼吸を整えた。

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だが、日本が一投に込めた思いは、ゴールに届かなかった。
ボールは、コートの外にはずれてアウト。
そして、試合終了の合図が鳴った。
日本は5対6でトルコに敗れた。

一礼を終えた選手たちの頬に、熱いものがこぼれ落ちた。
伊藤は、大事な局面で決められなかった自分の太腿を叩いていた。
キャプテン・信澤は、ロングボールのペナルティでトルコに有利な一投を渡して
しまったことなどを振り返り、「今日の試合では、自分が3つもミスをやってしまいました。
悔いが残るというか、自分が壊したと思います」と、言葉を絞り出した。

礼をする選手たち

礼をする選手たち

ヘッドコーチ池田の目は、潤んでいた。
「悔しいです」

池田は、今大会の予選リーグを通して、世界で戦うために取り組んできたこと
が実を結んだという手ごたえを感じていた。
国際大会で上位に入るチームに近づいているという実感があった。
ただ、日本に足りないのは、経験だと考えている。

「メダルがかかった試合をこなしていく経験がないと、大事な局面で力を発揮する
ことができないと思います。日本は、今回のトルコ戦のように大事なゲームで勝って、
大事な局面を乗り越えていく経験がまだないんです。今大会では、それを経験して
帰りたかった。
技術というよりは、心だと思うんです。勝負できる心をどれだけ練れるかです。
ゴールボールの技術は、世界の強豪チームと肩を並べるようになってきています。
本当に、勝てる。勝てる感触があります。あとは、経験なんです」。

ゴールボール日本代表・男子は、リオ・パラリンピックへの出場権獲得を目指して、
今年秋に開催されるアジアパシフィック大会に臨む。

最後のチャンスで、リオへの切符を獲りにいく。

(取材・撮影/河原由香里)